LGBT(セクシュアル・マイノリティ)の
当事者の方で、いずれ将来的に疎遠に
なった親の相続を受ける場面に出くわす
ことはあります。
セクシュアリティのことで、親との壮絶な
不和があったとしても、相続を受ける側に
なることに変わりはありません。
特に性別取扱い変更もされた、外観の性別
が変わったというような
トランスジェンダーの方は、レズビアン・
ゲイ・バイセクシュアルの方よりも生活や
周りとの関係で一変することもありがち
なので、疎遠などの事情があることは
珍しくありません。
しかし、親子の関係で勘当・断絶・絶縁
などは、感情面で縁を切るということは
あったとしても、そのことをもって法律上
の相続の権利は何ら変わらないのです。
これにおいては、「絶縁書」などのような縁を切る
意思を明確にする書面を残したとしても、
籍を抜いて子(親族)でないようにすることは
できません。
なので、勘当・絶縁などの事情があれど、
遺産においては、相続欠格に該当し相続権
を失ったり、廃除により相続権を剥奪
されない限り、相続する権利はあります。
そして、相続する権利があるということ
は、預貯金などのようなプラスの財産だけ
ではなく、
借金や保証債務などの
マイナスの財産も相続する
ことになります。
その場合に相続放棄をするには、以前の
記事でも触れたことがあるように、
原則として、相続人は、自己のために相続
の開始があったことを知ったときから
3か月以内にしなければなりません。
この熟慮期間内に、相続放棄の手続を
しなかった場合には相続を単純承認した
ものとみなされてしまいます。
ただし、特別な事情がある場合には、
相続開始の原因たる事実・自分が
法律上相続人となった事実を知った時から
3か月経過した後でも、相続放棄の申述が
できることがあります。
では、どのようなケースでしょうか。
1.熟慮期間の起算点が繰り延べられることがある!
相続放棄の申述において、熟慮期間の
起算点の例外を認めた判例があります
(最判昭和59年4月27日判決)。
まず、原則的には、相続人が相続開始の
原因たる事実及びそれによって自分が
法律上相続人となった事実を知った時から
起算します。
そして、相続人が上記の各事実を知った
場合であっても、各事実を知った時から
3か月以内に相続放棄をしなかったのが、
以下の①~③の要件をすべて満たせば、
熟慮期間は、相続人が相続財産の全部又は
一部の存在を認識した時又は認識し得べき
時から起算します。
①被相続人に相続財産が全く存在しないと
信じたことによる
②被相続人の生活歴、被相続人と相続人と
の間の交際状態など諸般の状況からみて
その相続人に対し相続財産の有無の調査を
期待することが著しく困難な事情がある
③相続人において上記のように信じるに
ついて相当な理由があると認められる
この判例により、相続放棄が認められる
ケースが広がったといえます。
しかしながら、①~③の各要件を裁判所に
認めてもらうために、詳細な事情・事実
などを示す必要があります。
そこで、上記の判例の元となった事案から
検討してみるのも良策です。
では、大元の事案は何なのでしょうか。
2.借金(負債)があることを知ったら早く行動した方がよい!
上記の判例の事案は、
被相続人は妻と離婚しており、相続人で
ある子どもともほぼ交流がありません
でした。
被相続人は、約1,000万円の連帯保証人となって
おり、債権者への責任を果たすことなく
亡くなりました。
相続人は死亡後1年経過したある日、債権者から
請求があり、急いで相続放棄の申述をし、
家庭裁判所に相続放棄を認めてもらいました。
ところが、債権者は納得いかず、
期間経過後の相続放棄の無効を主張し、
訴えを提起したのですが、
最高裁(上記の判例)は家庭裁判所の
下した相続放棄の有効性を認めました。
この事例では、債権者からの請求によって
はじめて被相続人の借金の存在を知り、
存在を知ってから3か月以内に相続放棄の
手続をとったことがポイントになります。
また、被相続人と交流がほとんどないなど
の事情があって、財産を知らなかったこと
も、重要な鍵となっていました。
3.まとめ
いかがだったでしょうか。
相続が起きて熟慮期間が経過した後でも、
特別な事情があれば相続放棄ができる場合
もありますので、債権者からの請求書など
がすでに届いている場合には早めに手続を
進めることをおすすめします。
また、相続人となったときに相続財産の
調査に難がある場合には、以前の記事でも
触れたことがあるように、
熟慮期間を伸長する手続を進めることも
良策といえます。
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