日本の刑法では、2017年の改正前までは、
「強姦罪」は以下のように定められていました。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2018/03/刑法.jpg)
「第177条 暴行又は脅迫を用いて十三歳
以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪
とし、三年以上の有期懲役に処する。
十三歳未満の女子を姦淫した者も、
同様とする。」
この条文内容では、男性の性的指向が女性
であるという前提の内容ですねぇ(-_-;)
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2018/03/女性だけ-300x141.jpg)
男性が男性に対して暴行又は脅迫を
用いて、肛門性交や口腔性交を強いた場合
にはどのように処罰されるのかという問題
が生じます。
改正前の刑法では、「強姦罪」ではなく、
「強制わいせつ罪」を適用していました。
「第176条 十三歳以上の男女に対し、暴行
又は脅迫を用いてわいせつな行為をした
者は、六月以上十年以下の懲役に処する。
十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為
をした者も、同様とする。」
との規定になっていました。
加害者の犯意、被害者の肉体的被害・
精神的苦痛、客観的な行為態様などは、
強姦とほぼ同様にもかかわらず、強姦罪
よりも法定刑が軽いのです。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2017/09/反逆-300x150.jpg)
明らかな相違点は、被害者が妊娠可能な
女性の場合、強姦が妊娠という結果を
もたらすということから、異なる罪名が
適用されていることがうかがえます。
強制わいせつ罪(176条)と強姦罪
(177条)との関係は、一般法と特別法の
関係にあると考えられています。
つまり、姦淫はわいせつな行為の一種で
あり、刑法は、後者よりも前者を重く処罰
する趣旨で、別に条文を定めたと
思われます。
ただ、この罪の重さの違いがどこからくる
のかという疑問が浮かんできます。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2018/02/不安定.jpg)
1.性刑法の保護法益とは…
強姦罪の処罰規定の加重根拠は、旧刑法の
時代にさかのぼってってみてみると、
血統の紊乱(ぶんらんと読み、秩序・風紀
などが乱れることを意味する。)が
考えられます。
明治維新後、日本は近代法整備に際し、
フランス刑法を参考にしており、
1832年、その法に強姦罪が導入され、
その目的は、妻が夫以外の子を出産して
嫡出の親子関係が崩れるのを防止する
という点にありました。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2018/03/托卵-300x168.jpg)
旧刑法には、姦通罪として、妻が夫以外の者と
性交することが処罰の対象となっていました。
なので、血統や嫡出関係が重要な保護法益
とされていていました。
妻に対する夫の支配権や、未婚女性に対する家長の
支配権を守ることが制定目的ともとれそうですが、
だとしたら強制わいせつ罪のみで足りるでしょう。
そこで、もう1つの根拠として、夫婦間の
強姦が不成立であることが挙げられます。
欧米諸国では、強姦罪の被害者となり得る
のは、妻以外の女性とされ、夫婦間の強姦
は認めておらず、日本の刑法でも、
特別の事情がない限りは、そのように解釈
するのが通説となっています。
これは、婚姻によって妻には性交応諾義務が生ずる
という理由に基づくものですが、
その根底には、夫婦間での妊娠・出産は、
血統や嫡出関係を乱さないという前提があります。
ただ、なぜに、血統や嫡出関係がこれほど
重視されてきたのかという疑問が
浮かびます。
それは、父系血統主義を基盤とする
家父長制度が社会体制を支配しており、
維持されるべきシステムだと考えられて
きたことが理由になります。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2018/03/家父長制度-300x132.jpeg)
位置づけられ方の次元の話では、強姦罪が
個人的法益ではなく、社会的法益の分類に
グルーピングされている犯罪であること
からも、そのことがうかがえます。
日本において、血統や嫡出関係に対する
執着には、根深いものがあります。
国籍法では、1984年の改正まで父系血統主義を
採っており、父が日本国籍の場合のみ子は
日本国籍を取得できる旨が規定されていました。
また、2013年9月の最高裁判決まで、
民法900条4号但書において、非嫡出子の相続分は、
嫡出子の相続分の2分の1との
規定になっていました。
さらに、皇室典範は、現在でも男系男子主義です。
強姦罪は女性のみを被害者としていること
で、一見女性を保護するための規定とも
考えられそうでしたが、実際には、
女性差別・女性への支配や抑圧を前提と
する家父長制度の延長線上に設けられた
犯罪類型というのが、本当の正体です。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2017/09/悪人.jpg)
そして、1960年代以降、欧米諸国の
フェミニズム運動により、このような趣旨
のある強姦罪の規定が厳しく非難され、
その後の法改革に結びついているのです。
2017年の刑法改正によって、条文は、
以下のようになりました。
「第177条 十三歳以上の者に対し、暴行
又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は
口腔性交(以下「性交等」という。)を
した者は、強制性交等の罪とし、
五年以上の有期懲役刑に処する。
十三歳未満の者に対し、性交等をした者
も同様とする。」
男性も被害者の対象になり、親告罪の規定
も削除されました。
また、18歳未満の者に対する監護者
わいせつ罪及び監護者性交等罪も新設
されました。
ジェンダー・セクシュアリティ中立的な
兆候が、ようやく現れてきつつある状態
です。
しかし、改正後の規定もまだ十分とは
いえず、裁判官による法解釈や法適用の
場面では、従来と相も変わらず、無意識的
な性差別・被害者への抑圧が
引き起こされる危険性があるのです。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2017/11/裁判-300x291.jpg)
代表的な問題が、「被害者の同意」の有無
が鍵になっている流れと、それを探って
いくために起きる「セカンド・レイプ」
です。
では、セカンドレイプとは何なので
しょうか。
2.セカンド・レイプとは…
セカンド・レイプとは、強姦罪において
問題となる「被害者の同意の有無」の証明
をしようとして、二次的に起きる、
いわば「心の強姦」というものです。
よく見られる訴訟上の手法として、被害前後の
被害者の言動やこれまでの性経験、従事する職種等
から被害者の性道徳観念の低さを指摘して、
同意があったことを間接証拠として提示する方法
です。
![](http://amethysthoumu.com/wp-content/uploads/2018/01/証拠.jpg)
例えば、被害者の女性の経歴で、
ファッションモデル、イベントコンパニオン、
芸能プロダクションのエキストラ・スタッフ等を
挙げるなどがあります。
つまり、被害の再体験といわんばかりの
精神的苦痛に加え、性道徳などによって
被害者自身が訴訟の中で裁かれるという
現実は、本来人権の砦である裁判所に
おいてさえ被害者が性的に支配されて
しまうのです。
3.まとめ
いかがだったでしょうか。
性刑法において、ジェンダー・
セクシュアリティ中立性の面では前進した
とはいえ、セカンド・レイプなどの問題は
まだ残ったままです。
今後の性刑法改革においては、性犯罪規定
の制定目的や保護法益の次元からの
さらなる根源的な問い直しを続けていく
必要が大いにあるといえるでしょう。
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