同性カップルや、
異性どうしの内縁・事実婚の関係では、
自分が将来亡くなった時に不動産の名義を
遺されたパートナーに移すことが
できるよう、
遺言書を作成して遺贈の準備をすることが
あります。
この場合、
パートナーは法定相続人ではないため、
「相続させる」ではなく、
「遺贈する」という文言になります。
反対に、
パートナーが婚姻・養子縁組の事情により
法定相続人であれば、
「相続させる」という扱いが可能です。
不動産の遺産承継において、
「相続させる」と「遺贈する」とでは、
以前の記事でも触れたことがあるように、
名義を変える登記申請にあたって、
「相続させる」では
パートナーが単独で申請でき、
「遺贈する」では
パートナーが遺言執行者と共同して
申請する必要があります。
とはいえ、「遺贈する」場合、
遺言でパートナーが
遺言執行者に指定されていれば、
パートナーが受遺者と遺言執行者を兼ねる
ことになります。
ただ、
「相続させる」が単独申請、
「遺贈する」が共同申請
という違いがある以上、
必要書類に違いがあります。
相続の場合、登記申請に不動産の
権利証や登記識別情報が、
原則として、必要ないですが、
遺贈の場合には必要になります。
登記識別情報とは、本人確認のための制度で、
不動産の登記名義人となった申請人ごとに
定められ、12桁の英数字の組合せです。
例えば、AがBに不動産を売却して
所有権移転登記が完了すると、
登記官は新たに登記名義人となった
申請人Bに対して登記識別情報を通知します。
登記識別情報は、
いわばキャッシュカードの
暗証番号のような情報で、
他人に知られてしまうことは権利証を
奪われることに等しいため、
誰にも盗み見されないように
厳重に管理される必要があります。
上記の例でいうと、登記識別情報はB以外の者には
知り得ない、
つまりB本人だけが知っている情報であることが
前提となっています。
そのため、次回BがCに売却して所有権移転登記の
申請の際に、
Bに登記識別情報を提供させることによって、
この申請人が登記名義人B本人だと確認できるという
仕組みです。
かつて、不動産登記法上、
権利証には登記完了通知機能、登記名義人の
本人確認機能などが存在していましたが、
カラーコピーなどによる権利証の精巧な偽造が
増加したことを受けて、
権利証の代替的手段として、
登記識別情報が導入されました。
とはいえ、
遺贈による登記申請をする場合に
権利証や登記識別情報が必要となるものの、
紛失・失念によってない場合も考えられます。
このような場合でも、
再作成・再通知をする制度はありません。
では、どうすればよいのでしょうか。
1.権利証・登記識別情報がない場合には…
不動産の登記申請において、
権利証・登記識別情報が必要な場合に、
それを提供できないときには、
登記義務者(ex. 売買では売主)本人が
その登記を申請していることを
確認するため、
つまり登記義務者以外の者が
本人になりすましての登記申請を
防止するため、
法務局が、その者に対し
登記申請があった旨・申請の内容が真実で
あると思料するときには一定期間内に
その旨を申出をすべき旨を通知します。
この制度を事前通知といい、
権利証や登記識別情報を提供できない
場合における
本人確認制度の原則方式です。
そして、この事前通知に対し、
登記義務者から真実である旨の
申出があれば、登記が実行されます。
この事前通知に対し、発送日から2週間
(登記義務者の住所が外国の場合は
4週間)以内に申出をしなければ、
申請は却下されますので、
注意が必要です。
事前通知を省略することができる
他の方法には、
資格者代理人による本人確認情報の提供、
公証人による認証の2つの方法が
あります。
登記を
資格者代理人(弁護士や司法書士)による
代理申請を採る場合に、
登記官が資格者代理人から、申請人が
登記義務者であることを確認するために
必要な情報(本人確認情報)の提供を
受け、その内容を相当と認めるときは、
事前通知の手続を経ずに登記を実行
できます。
資格者代理人が本人確認する際には、
顔写真のある本人確認書類
(運転免許証やマイナンバーカードなど、
1号書類)は1つで足りますが、
顔写真のないもの
(健康保険証や介護保険証など、
2号書類)しかない場合には
2つ以上必要になります。
公証人による認証は、
公証役場で登記申請書について公証人から
その申請人が登記義務者本人であることを
確認するために必要な認証がされ、
登記官がその内容を相当と認めた
場合にも、
事前通知の手続を経ずに登記を実行
できます。
以上のように、権利証の紛失や
登記識別情報の失念の事情により、
登記申請の際に提供できなくても、
代替する方法がありますが、
そもそも権利証・登記識別情報の保管する
方法にも注意することがあります。
では、どういったことでしょうか。
2.権利証・登記識別情報と実印・印鑑カードを近くに置くな!
貴重品は、つい同じ場所に保管しがちに
なると思われますが、
権利証・登記識別情報と
実印・印鑑カードを同じ場所に
保管しておくのは、とても危険なことなのです。
所有権移転の登記申請する際には、
登記義務者(所有権を失う側)の
権利証・登記識別情報だけでなく、
実印とその印影を証する印鑑証明書が
必要になります。
印鑑証明書を市役所で取得する際には、
印鑑カードが必要になりますが、
印鑑カードさえあれば他に本人を証明する
ものがなくても、
他人でも印鑑証明書を取得することが
できてしまいます。
そして、もし第三者に盗まれる事態に
なったときに、権利証・登記識別情報と
実印・印鑑カードが
同じ場所に揃っていると、
ありもしない売買契約や贈与契約を装い、
書面を偽造して勝手に名義を変えられて
しまうリスクがあります。
ですので、
不動産の権利証・登記識別情報と
実印・印鑑カードは同じ場所での保管は
避けることをおすすめします。
また、登記識別情報は、用紙自体でなく
記載されている12桁の英数字を知られて
しまうことが権利証を奪われることに
等しいので、
もし不正な登記が行われていなくても、
登記識別情報の盗難・漏洩などの可能性が
あるのでしたら、その英数字が有効に
使用できないよう、失効申出を行っておく
ことも有用的です。
ただ、登記識別情報の失効申出を行うと、
その英数字は失効し今後使用できなくなる
ので、
次回の所有権移転の登記申請の際には、
上記1.の事前通知、
資格者代理人の本人確認情報の提供などの
手段が必要になります。
3.まとめ
いかがだったでしょうか。
生前対策として、不動産をパートナーに
遺贈する際には、その遺言書だけでなく、
不動産の権利証・登記識別情報も将来の
登記申請の際には必要になり、紛失する
リスクもあります。
保管方法は人それぞれあると思いますが、
くれぐれも権利証・登記識別情報を
実印・印鑑カードと同じ・近い場所での
保管は避けることが賢明です。
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