法律上の夫婦、内縁・事実婚の夫婦、
同性カップル、おひとりさまなど、
世の中には、様々の家族のかたちが
あります。
どんな家族形態でも、人が亡くなると、
通夜、葬儀、火葬、納骨、埋葬、
永代供養、
病院の入院費や施設の利用料などの支払、
家賃、地代、管理費などの支払や、
敷金や保証金などの清算、
賃貸物件の明渡しや退去手続、
電気・ガス・水道の解約、
行政官庁などへの諸届(戸籍関係の
手続、年金や健康保険の死亡届など)、
などのように、様々な事務が必要に
なります。
一般的に、このような死後の事務は、
親族が行うのが多いようですが、
内縁・事実婚、同性カップルなどの関係
のパートナーや、おひとりさまなどの
ように、親族以外の方に自分の死後の
事務をしてもらうためには、
死後事務委任契約
を結んでおかなければ、死後の事務を
スムーズに行うことができないおそれが
あります。
ここで、遺言書やエンディングノート
で対応することができないのかという
疑問が浮かびそうですが、
遺言書やエンディングノートで代用
すると、大きな落とし穴があります。
では、死後事務委任契約の遺言や
エンディングノートの相違点が
どういったもので、注意すべきことは
何でしょうか。
1.遺言に書けば何でも効力があるわけではない!
遺言書に書いておけば、何でも法律的に
効力が認められるわけではなく、
効力が認められる内容は、民法などの
法律によって定められています
(法定遺言事項)。
法定遺言事項には、
相続分の指定、
遺贈、
遺言執行者の指定、
遺産分割方法の指定、
特別受益の持戻の免除、
推定相続人の廃除・廃除の取消し、
認知、
未成年後見人の指定、
生命保険の保険金受取人の変更、
祭祀の承継者の指定、
などがあります。
特別受益とは、以前の記事でも触れたことがある
ように、
相続において、相続人に被相続人から相続分の
前渡しとみられる生前贈与や遺贈がある場合
(特別受益者)、他の相続人との公平を図るため
に、相続分の修正を行い、この計算を持戻と
いいます。
ただ、特別受益者がいても、それを考慮せずに、
相続開始時の財産のみを対象として法定相続人の
間で分けるようにする、持戻の免除もできます。
推定相続人の廃除とは、以前の記事でも触れた
ことがあるように、
虐待・重大な侮辱・その他著しい非行の事情の
ある相続人に自己の財産を相続させないように
することをいいます。
対象となるのは、兄弟姉妹以外の相続人です。
未成年後見人とは、以前の記事でも触れたことが
あるように、
子どもが未成年のうちに親権者が亡くなった場合
に、子どもの保護者となる者をいいます。
生命保険の保険金受取人の変更は、以前の記事でも
触れたことがあるように、
各生命保険会社の約款の内容によって変更に影響が
出るため、事前に保険会社に手続の確認をとって
おいた方が無難です。
祭祀承継者は、お墓などの祭祀財産や遺骨の
管理をし、祖先のまつりごとを主宰すべき
人をいいます。
ただ、祭祀承継者というのは、死後事務に
いう、通夜・葬儀・火葬・納骨・埋葬・
永代供養などを事務をしてもらう人という
意味ではないので、注意が必要です。
そして、死後事務をしてもらう内容は、
遺言法定事項ではないので、付言事項に
書いたとしても、以前の記事でも触れた
ことがあるように、
法的に死後事務を任す・任されるという
権利・義務の効力はありません。
もちろん、遺された者の間で揉め事に
ならないように、想いを書き残しておく
という意味で付言事項を書く意義は
あります。
エンディングノートも、以前の記事でも
触れたことがあるように、
法的な効力はないので、死後事務委任契約
に代替できるものではありません。
ここで、遺言書でパートナーを遺言執行者
に指定していれば、遺言執行者の立場で
死後事務をできるのではないかという発想
になるかもしれませんが、
遺言執行者の立場だけでは死後事務を
できるわけではありません。
では、どうしてでしょうか。
2.遺言執行と死後事務の違いとは…
遺言は、主に財産の承継先の内容を記載
し、遺言執行はその内容を実現することを
いいます。
遺言執行は、以前の記事でも触れたことが
あるように、
預貯金の払戻しや不動産の登記などの手続
などを指します。
遺言執行者は、遺言書で記載されている
財産の承継に関する手続に関してのみ
事務を行う権利があり、
亡くなられた方の死後整理などについて
何でもかんでもできるというわけでは
ありません。
また、遺言は、本人の一方的な意思表示
です。
なので、遺されたパートナーの意思表示を
介すことなく成立します。
これに対して、死後事務委任契約は、
契約である以上、任す方・任される方の
両者の意思表示が合致して
初めて成立します。
遺言と死後事務委任は、このような性質の
違いがあるため、遺言執行者に死後事務
手続をする権利がないため、
死後整理などの事務を法的にパートナーに
してもらえるようにしておくには、
死後事務委任契約が必要になります。
また、死後事務委任契約を書面で残す際
には、遺言の場合と同様に、
公正証書
による方法で作成する方が良いです。
では、公正証書で作成することにより、
どのようなメリットがあるのでしょうか。
3.死後の委任契約。将来本人はもうこの世にいないので…
死後事務委任契約を公正証書で作成する
のは、以前の記事でも触れたことがある
ように、
公証人が関与する以上、法律に違反する
内容や、無効な法律行為の証書が作成
されることはなく、
当事者双方の本人確認も厳格に行われる
以上、内容的に安全さが担保されます。
また、公正証書の原本は、公証役場で厳重
に保管されるので、紛失・偽造・変造の
おそれもありません。
本来、人が亡くなると、生前に発生した
未払金や契約関係(病院・施設の費用、
賃貸物件の費用や退去手続、水道光熱費の
清算・解約手続など)は、
相続人にその地位が承継されます。
よって、死後事務は、亡くなられた方と
生前に親しい間柄だったり、家族のような
付き合いをしていたという理由だけで
当然に行うことができるものでは
ありません。
亡くなられた本人に生前に委任されていた
ことを確かなもので証明するとなれば、
公正証書で作成された死後事務委任契約書
の方が無難なのです。
また、パートナーが任意後見人や
成年後見人などの代理人の立場と
なっている場合、これらの制度は、
以前の記事でも触れたことがあるように、
本人が生前に認知症などにより判断能力が
衰えた際に、契約や財産管理を代わって
する制度なので、
本人の死亡によって代理権は消滅します。
もちろん、死亡して生前の入院費や施設
の清算をし、管理の計算を済ませ、
その内容を家庭裁判所に報告し、
その後、財産を相続人に引き継ぐという
残務があるため、
いきなり何もしてはならないわけでは
ありませんが、
生前に締結されていた契約の手続や
賃貸物件の退去手続などをする権限は
ありません。
よって、これらのケースでも、死亡した
後の手続を踏まえると、死後事務委任契約
が必要になります。
ちなみに、死後事務委任契約は契約である
以上、判断能力がしっかりあるうちにして
おく必要があるので、
本人に代理人が必要になる時点よりも前
(判断能力が衰える前)に契約を締結して
おくことが重要です。
4.まとめ
いかがだったでしょうか。
人が亡くなった後は、様々な手続が
待ち構えています。
遺言書は財産承継に関する生前対策で、
死後事務委任契約は遺言書で対応できない
範囲の手続のための生前対策なので、
死後の手続をどう進めるかを網羅的に
決めるには、遺言書・死後事務委任契約書
を公正証書で作成することが
おすすめです。
遺言書を作成することにおいても、
以前の記事でも触れたことがあるように、
自書で作成する要件は緩和されたものの、
公正証書遺言で作成する方が安全です。
あなたも将来亡くなった後のことの手続
や、その対策に必要な遺言や死後事務委任
のことでお悩みではないでしょうか。
いまいちピンと来られていない方は、
ご自身で悩み判断せず、
是非お問い合わせください。
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