セクシュアル・マイノリティ
(性的少数派)の諸問題への取組みは、
政治・行政(自治体)、活動家などへの
任せっきりにしていてはいけない事情が
あります。
たしかに、近年LGBTの話題をメディアが
取り上げることが多くなり、当事者でない
人たちでもセクシュアル・マイノリティの
存在を認知する機会がますます増えて
います。
その現状や今後LGBTに関する施策が
もっと増えていくことになりそうな理由の
一つは、2020年に日本で開催される
東京オリンピック・パラリンピックです。
2014年12月、国際オリンピック委員会は
オリンピック憲章の中で、以下の表現を
もってセクシュアル・マイノリティへの
差別を禁止しています。
「このオリンピック憲章の定める権利および自由は
人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治
またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、
財産、出自やその他の身分などの理由による、
いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受
されなければならない。」
つまり、国際的にみても、
セクシュアル・マイノリティへの差別は
許されるものではないということです。
そして、オリンピックに関する物品や
サービスなどをどこから調達するかという
ガイドラインに当たる、調達コードが
あります。
調達先の企業も調達コードに沿っている必要があり、
企業というのも単に商品・サービスを供給している
企業だけではなく、その材料を作っている企業や
ライセンスを受けている企業も含まれます。
オリンピック憲章に性的指向による
差別禁止が明記されているので、
オリンピック開催国はこれに準ずる必要が
あることで、上記のような企業は
調達コードを守っていることが
求められます。
それによって、LGBTフレンドリーという
LGBTの人々に対して温かく開かれた状態
の実現のために、以下のような様々な方法
があります。
・社内規定の整備
性的指向や性自認に関わる差別を禁止することを
就業規則に明記したり、社内でLGBTに関する研修を
実施したり、業界内でのガイドラインを整備すること
などが挙げられます。
・福利厚生の充実
同性パートナーを、異性カップルの場合と
異なることなく同等に配偶者として認める動きなど
があります。
・提供する商品・サービスの適正化
夫婦向けというような記載をしないことが
挙げられます。
ただ、調達コードに沿うことは、
東京オリンピック・パラリンピックに
関わる企業が対象となるので、
言い換えれば、
それに関係のない企業は
調達コードを守る必要がない
ことになります。
また、セクシュアル・マイノリティに
関するテーマ以外にも、そもそも
オリンピック開催地になることはどんな
影響をもたらすのでしょうか。
LGBTフレンドリーにおける喜ばしい声が
ある一方で、2020年を過ぎた後の日本の
心配もあるというのも事実なのです。
1.オリンピックで社会経済活性化は、たいてい幻想にすぎない!
オリンピックを開催すれば世界中から
たくさんの人が集まり、経済が活性化する
と考えられていますが、実は過去の開催地
をみてみると、無残な結果に終わっている
国がたくさんあります。
オリンピック開催において問題となるの
は、費用です。
オリンピック開催にかかる費用は、平均的
には約3兆円といわれています。
実際に過去の開催地では、
ロンドン五輪では2兆円、
ソチ五輪では4兆2,000億円
の費用がかかっています。
そして、2020年の東京オリンピックでは、
予算が約3兆円となっています。
その割にスポンサーやチケット収入などで
集められる資金は、約4,500億円と想定
されています。
なので、東京オリンピックの費用が
3兆円で収まったとしても、赤字は
2兆5,000億円出ることになって
しまいます。
一応、オリンピックは、日本の文化や
技術力を世界にアピールできる希少性の
高い機会といえるので、開催後の観光客の
増加によって大きな経済的効果が期待
できるものだとされています。
とはいえ、実際には、アトランタ以外の
オリンピック開催地では、アテネ、
バルセロナ、ソウル、北京にせよ、
すべて、翌年に成長率は落ちています。
モントリオールオリンピック(1976年開催)では、
物価の高騰や段取りのずさんさなどを原因に、
約1兆円もの赤字が発生し、その赤字額をカナダ連邦
政府やモントリオール市が負担することになった
という、事実もあります。
この件で、モントリオール市は返済のために、
不動産税の増税などを講じて税金を集め、返済が
完了するまで30年(2006年に完済)かかりました。
なので、モントリオール市民たちは、
オリンピック開催によるツケの支払いを30年もの間
負担してきたのです。
このような費用面の問題から、実際、
オリンピック開催地に立候補する都市は
減っています。
そして、オリンピックで使われる豪華な
スタジアムも、ネックな問題です。
世界的には、オリンピックスタジアムを
「white elephant」と、大会が
終われば全く使われることのない無用の
長物という皮肉めいた名前で呼ばれて
います。
「white elephant(白象)」は、用済みのもの、
厄介なものなどの意味があり、
白象がタイで神聖視され飼うのに費用がかかるため、
王が失脚させたいと思う臣下にわざと白象を贈った
ことが語源です。
世界各地には、オリンピック後にボロボロ
となって草の生え放題になったスタジアム
が残っています。
なので、約2週間のためにスタジアムを
つくることは、現実的に考えると、非常に
リスキーな経済的賭けに出てるといえます
ねぇ。
ただ、オリンピックは平和の祭典であり、
スポーツを通じて平和な世界の実現に寄与
することが本来の目的なので、費用や
経済的な意味合い以上のものがあると
捉えることもでき、
セクシュアル・マイノリティに関する
取組みもそのうちの一つです。
では、2020年が過ぎ去れば、日本で
LGBT関連のことはどのようになっていく
のでしょうか。
2.一時的なブームで終わらないためにも…
オリンピック憲章に掲げられている
ように、セクシュアル・マイノリティに
関する差別禁止があるため、同性婚などの
制度が整っていない日本でも、考えや理解
がどうであれ受け入れ、さらに
LGBTフレンドリーも広めていく動きに
なっているのが現状です。
なので、理解促進よりも、拒否できない
というニュアンスの方が大きいように
思えます。
東京オリンピック・パラリンピック協賛
企業が当然ながらLGBTフレンドリーで
ある一方で、それ以外については
その企業次第という状態です。
また、LGBTフレンドリーに関する意識の
ある人々や企業に期待し待っている間、
当事者の中で、就職活動・職場などでの
不利・不当な扱いや、学校、施設、医療
などの場面での差別・ハラスメントを
受ける可能性もあります。
たしかに、様々な団体や活動家などの活動
により、以前よりも周知しています。
ただ、2020年を過ぎた後のことで心配な
点として、学校(教育現場)や自治体、
企業などがLGBTに関して学ぶことを
後回しにする傾向が出てくる事態が
考えられます。
それを踏まえると、近年よくみられる
LGBTに関する司法ブーム(同性婚が
できないことの違憲訴訟、性同一性障害
特例法に手術要件があることの違憲訴訟
など)により話題が絶えることなく、
先に外側から固め、次に内側も固めていく
という動きは、意外にも良策なのかも
しれませんねぇ。
ただ、いきなり一変することを目指すので
はなく、「ローマは一日にして成らず」
というように、地道な積み重ねが大切
です。
3.まとめ
いかがだったでしょうか。
東京オリンピック・パラリンピックの
おかげでLGBTフレンドリーが広がって
いるのは事実であるものの、その力が
なければ失速するおそれがあり、時の
ブームで終わらせることはあっては
いけません。
そうならないように、国・自治体に任せて
おけば何とかなるという発想ではなく、
人々の意識が変わるための動きをとること
が大切です。
自治体の取組みで一つ言えることは、
トランスジェンダーの当事者にとっての
トイレ、更衣室などの利用における
ジェンダーレス化などのための整備が進む
ことは、オリンピックスタジアムと違い、
white elephantにはならないということ
です。
もちろん、以前の記事でも触れたことが
あるように、
当事者の事情にも対応した配慮があること
は前提です。
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