同性カップルの方々で、自分が将来
亡くなった際に財産の権利をパートナーに
移すために、生前に遺言で準備をしておく
ことが考えられますが、その際に親族側に
財産を返還することができる遺留分権利者
がいることが気にかかりますよねぇ。
民法上、将来の相続に向けての準備を
考える際に、相続させたくない人が
いたり、そのような人が遺留分減殺請求
すらできないようにしておきたいという
事情がある場合に、一定の要件のもとで、
本人(将来の被相続人)の意思により
相続人にさせないように家庭裁判所に請求
できます。
これは、以前の記事で触れたことのある
相続欠格事由には該当しないものの、
被相続人が相続人に自己の財産を相続
させたくない事情を想定してます。
そして、この手続のことを推定相続人の
廃除といいます。
廃除の対象となるのは、遺留分を有する
推定相続人であり、兄弟姉妹以外の相続人
をさします。
兄弟姉妹には遺留分がないため、
相続させたくないときは、パートナーなど
他の者に遺贈などすれば済むだけの話なの
です。
さらに、廃除のためには、
相続させたくない者に以下の要件の
いずれかが備わっている必要があります。
①被相続人に対する虐待
②被相続人に対する重大な侮辱
③推定相続人の(①・②以外の)著しい
非行
しかし、この廃除の手続には難題な点も
あり、後の親族との関係や相続に関する
ことで注意することがあります。
1.廃除事由が認められるにはハードルは高い!
廃除を認めるための要素となる、
推定相続人の所為が被相続人に対する
虐待、重大な侮辱又は著しい非行に当たる
かどうかは、家庭裁判所は、両者について
様々なことを考慮しなければなりません。
その上で審判例の多くは、推定相続人に
おいて、相続的協同関係を破壊するような
行為かどうか・それによって現に協同関係
が破壊されているかどうかを基準に判断
しています。
そして、廃除を求められた推定相続人の
有責性が顕著に高いといえるかどうかも
判断の目安になります。
実際に、廃除が認められた例としては、
・末期がんで自宅療養中の妻に対し、療養に極めて
不適切な環境を作出した上に、その人格を否定する
ような暴言をした夫について廃除が認めらた
(釧路家北見支審平成17年1月26日)
・在学中から虞犯事件を繰り返し、その挙げ句
暴力団員と婚姻して婚姻に反対している父の名で
披露宴招待状を出すなどした事案で、
親が多大な精神的苦痛を受け、名誉を毀損された
として廃除が認められた
(東京高決平成4年10月14日)
等々があります。
とはいうものの、そもそもの原因を
本人(被相続人)が作り出したような場合
や、一時の激情に駆られたような場合
には、廃除は認められません。
また、単なる素行不良や浪費といった事実
だけでも認められません。
なので、廃除の請求が家庭裁判所に
認められること自体のハードルが高いの
です。
また、要件のハードルの高さだけでは
なく、手続の性質上が故の難もあるの
です。
2.廃除の審判をするにあたり、余計に関係が悪化しやすい!
廃除には、本人(被相続人)が生前にする
方法(生前廃除)と遺言でする方法
(遺言廃除)があります。
生前廃除は、本人が推定相続人の廃除を
家庭裁判所に請求し、審判によって廃除
されます。
遺言廃除は、本人が遺言書で推定相続人を
廃除する意思表示をしたときに、遺言者が
死亡後、遺言執行者がその推定相続人の
廃除を家庭裁判所に請求し、審判によって
廃除されます。
ただ、推定相続人の廃除の審判事件は、
廃除を求める申立人側と廃除を求められた
推定相続人はとが対立する紛争性の高い
事件となります。
家庭裁判所としても、廃除を求められた
推定相続人の陳述の聴取をしなければ
ならないことになっています。
生前廃除では心理的負担がかかるという
ことから、遺言廃除を選べばこれについて
は回避できます。
しかし、廃除原因について当事者から反論
された場合、遺言執行者では亡くなった
本人に代わって正確な対抗手段を講じる
ことが難しいというデメリットが
あります。
なので、廃除事由(虐待・重大な侮辱・
著しい非行)の要件のハードルをクリア
できるわけでもなく、受贈者である
パートナーが遺留分減殺請求される事態を
避けるのが目的の場合には、遺言書の付言
を活かすことが考えられます。
3.廃除より遺言書の付言事項がすすめられるのは…
以前の記事でも触れたことがあるように、
遺言者がなぜそのような遺言の内容にした
のかの想い・感謝の気持ちや、遺された
パートナーと仲良くやっていってほしい旨
について書くことは重要です。
もちろん、付言事項の内容をきっかけに
親族側が憤慨して争いにならぬよう注意を
払う必要があります。
また、「どうか遺留分減殺請求はしないで
ほしい」というような露骨に遺留分に
ついて触れる内容を記載するのは避けた方
が良いです。
4.まとめ
いかがだったでしょうか。
民法上では、遺留分を有する推定相続人の
廃除の制度は設けられていますが、
認められるのは受理件数のうち
わずかな程、ハードルは高いのです。
これは、被相続人が廃除の制度に乗じて、
推定相続人に封建的な関係を強いることが
ないように安易に廃除を認めない傾向に
あるためだといえます。
また、ご自身が過去にセクシュアリティを
めぐって親子間で不和があったとしても、
セクシュアリティは重要な人権なので、
廃除事由(虐待・重大な侮辱・著しい
非行)に該当するようなことがない限り、
親の相続権のことで心配することは
ありません。
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